更新履歴(3件・最終更新 2026年08月02日)
この記事に加えた変更の記録です。アーカイブした更新前のバージョンは、DOI付きの固定URLから読めます。
- 記事の冒頭に「この記事の知識マップ」節を追加しました。本文で扱っている概念とその関係を、要約・図・詳細ページへのリンクにまとめたものです。本文の主張は変えていません。
- 外部レビュー(1283件)への対応として本文を更新しました。個々の変更内容は、この下の履歴を参照してください。
- dscomが何かと、32bit用の`dscom32.exe`の入手方法を新設しました(`dotnet tool`版では64bitのTLBしか作れません)。VBAでの実行結果の期待値と`Err.Number`の読み方、.NET例外とHRESULTの対応表、参照設定の具体的な操作手順、登録解除の手順、.NETランタイムの入手案内を追加し、冒頭に必要な環境の表を置きました。
- 初版公開
この記事を引用する(DOI: 10.5281/zenodo.21589668)
この記事はZenodoにアーカイブされています。常に最新版へ解決されるDOIと、いま表示している版に固定されたDOIの両方を下に示します。
小村 豪(2026)「.NET 8 DLLをVBAから型付きで使う方法 - COM公開とdscom TLB」合同会社小村ソフト. https://doi.org/10.5281/zenodo.21589668 https://staging.comcomponent.com/blog/2026/03/16/007-dotnet8-dll-typed-vba-com-dscom-tlb/
- DOI(最新版)
- 10.5281/zenodo.21589668
- DOI(この版)
- 10.5281/zenodo.21732695
VBA から .NET 8 の処理を呼びたい場面はまだ普通にあります。特に、Excel や Access の既存資産はそのまま残しつつ、重い処理、文字列処理、HTTP、暗号、業務ロジックのような部分だけを C# に逃がしたいときです。
ただ、CreateObject で遅延バインディングに寄せると、VBA 側では Object だらけになります。IntelliSense は弱くなり、メソッド名の打ち間違いは実行時まで見つからず、だんだん文字列頼みのぬかるみに沈みます。
そこで今回は、.NET 8 の DLL を COM 公開し、dscom でタイプライブラリ(TLB)を生成し、VBA から早期バインディングで型付き利用するところに絞って整理します。
.NET Framework + RegAsm の昔話、IDL を手書きして MIDL で固める話、Reg-Free COM の話は今回は横に置きます。ここでは、.NET 8 / COM host / dscom / VBA early binding の一本道だけを扱います。
なお、この記事に登場するコードは、ビルド・検証できるサンプル一式(COM 公開ライブラリ、TLB 生成・登録スクリプト、VBA モジュール、ユニットテスト)として GitHub で公開しています。
dotnet8-dll-typed-vba-com-dscom-tlb - komurasoft-blog-samples (GitHub)
必要な環境
| 項目 | 必要なもの |
|---|---|
| OS | Windows。COM 登録を行うので、regsvr32 を管理者権限で実行できること |
| .NET SDK | .NET 8 SDK。EnableComHosting は .NET 5 以降の機能です |
| Office | Excel または Access。32bit 版か 64bit 版かを先に確認します(3 章) |
| TLB 生成ツール | dscom。64bit 用と 32bit 用で入手方法が違います(6 章) |
| クライアント PC | Office と同じ bitness の .NET 8 ランタイム(9 章) |
手順に入る前に、自分の環境の版を控えておくことを強く勧めます。あとで「同じ手順なのに動かない」となったとき、比較できる情報がここにしかないからです。
# .NET SDK とランタイムの一覧(x64 / x86 のどちらが入っているかも分かります)
dotnet --info
# Windows のビルド番号
winver
Office の版とビットは、Excel の ファイル > アカウント > Excel のバージョン情報 で確認できます。ダイアログのタイトル行の末尾に 32 ビット または 64 ビット と出ます。
1. まず結論
先に結論だけ並べると、流れはこうです。
- .NET 8 のクラスライブラリを
EnableComHosting=trueでビルドする - COM に見せる 明示的なインターフェイス と クラス を作る
- クラスは
ClassInterfaceType.Noneにして、AutoDualに逃げない - VBA から使うインターフェイスは
InterfaceIsDualにする - ビルド後にできた
*.dllから、dscom tlbexportで*.tlbを作る regsvr32で*.comhost.dllを登録するdscom tlbregisterで*.tlbを登録する- VBA で参照設定を追加し、
Dim x As ライブラリ名.IYourInterfaceのように型付きで使う
要するに、COM の入口は .NET SDK が作る *.comhost.dll、型情報は dscom が作る *.tlb、VBA はその TLB を見て早期バインディングする、という構成です。
この記事の知識マップ
.NET 8のクラスライブラリをVBAから型付きで利用するには、COMの型情報であるタイプライブラリが不可欠で、これはdscomというツールが.NET Frameworkで廃止されたtlbexp.exeやRegAsm.exeの後継として生成・登録します。.NET側はEnableComHostingでビルドしたCOM hostをCOMの起動入口とし、regsvr32での登録とOfficeとのbitness一致が前提になります。VBA側はタイプライブラリを参照設定で読み込むことで早期バインディングが使え、CreateObjectによる遅延バインディングより型安全に使えます。公開後の互換性はIIDやCLSIDの扱いとClassInterfaceTypeの選び方に左右され、ClassInterfaceType.NoneとInterfaceIsDual、DispIdの組み合わせがVBA参照の破損を避ける定石です。
flowchart LR
accTitle: 「.NET 8のDLLをVBAから型付きで使う方法の知識マップ」
accDescr: VBAが早期バインディングでCOMを型付きに使うにはタイプライブラリが必要で、dscomがそのTLB生成と登録を担い、.NET 8側はCOM hostとして公開されること、ClassInterfaceTypeやIID・CLSIDの扱いがVBA参照の互換性にどう影響するかを示す図
vba["VBA(Visual Basic for Applications)"]
dscom["dscom"]
type_library["型ライブラリ(TLB)"]
com_early_binding["早期バインディング(VBA)"]
com_late_binding["遅延バインディング(CreateObject)"]
tlbexp_regasm["tlbexp.exe / RegAsm.exe"]
comhost["COM host(*.comhost.dll)"]
regsvr32["regsvr32"]
dotnet[".NET(Core以降)"]
com["COM(コンポーネントオブジェクトモデル)"]
iid["IID(インターフェース識別子)"]
clsid["CLSID(Class ID)"]
vba_reference_break["VBA参照・登録の破損"]
classinterfacetype_autodual["ClassInterfaceType.AutoDual"]
classinterfacetype_none["ClassInterfaceType.None"]
dispid_attribute["DispIdAttribute"]
interface_is_dual["InterfaceIsDual(デュアルインターフェイス)"]
hresult["HRESULT"]
dotnet_exception[".NET例外"]
com_visible_attribute["ComVisibleAttribute"]
bitness_match_requirement["bitness一致要件"]
vba -.->|"前提とする"| type_library
com_early_binding -->|"前提とする"| type_library
vba -->|"利用する"| com_early_binding
vba -->|"利用する"| com_late_binding
com_late_binding -.->|"用いるのは非推奨"| vba
dscom -->|"実装を担う"| type_library
dscom -->|"の後継"| tlbexp_regasm
type_library -.->|"で構成できる"| dscom
comhost -->|"で構成できる"| regsvr32
comhost -->|"前提とする"| dotnet
comhost -->|"実装を担う"| com
vba -.->|"利用する"| com
com -->|"前提とする"| iid
com -->|"前提とする"| clsid
iid -.->|"原因になり得る"| vba_reference_break
clsid -.->|"原因になり得る"| vba_reference_break
classinterfacetype_autodual -.->|"原因になり得る"| vba_reference_break
classinterfacetype_autodual -->|"用いるのは非推奨"| vba
classinterfacetype_none -->|"推奨される対応"| vba
dispid_attribute -->|"軽減する"| vba_reference_break
interface_is_dual -->|"推奨される対応"| vba
com -->|"利用する"| hresult
dotnet_exception -.->|"で確認できる"| hresult
dotnet -->|"で構成できる"| com_visible_attribute
comhost -->|"前提とする"| bitness_match_requirement
dscom -.->|"前提とする"| bitness_match_requirement
regsvr32 -->|"前提とする"| bitness_match_requirement
図の実線は常に成り立つ関係、破線は条件付きの関係です(成立条件は詳細ページの各関係の説明に記載)。関係すべての一覧(全27件、根拠・確度つき)と主要概念の定義は知識マップ詳細ページにまとめています。データ: JSON-LD / Turtle
2. この構成の全体像
まず、何が何の役目なのかを 1 枚で見ます。
flowchart LR
VBA["VBA / Excel / Access"] -->|参照設定した TLB で型情報取得| TLB["VbaTypedComSample.tlb"]
VBA -->|COM 呼び出し| COMHOST["VbaTypedComSample.comhost.dll"]
COMHOST --> DOTNET["VbaTypedComSample.dll (.NET 8)"]
DOTNET --> RUNTIME[".NET 8 Runtime"]
それぞれの役割はこうです。
| ファイル | 役割 |
|---|---|
VbaTypedComSample.dll |
.NET 8 の実装本体 |
VbaTypedComSample.comhost.dll |
COM から呼ばれる入口 |
VbaTypedComSample.tlb |
VBA が見る型情報 |
VbaTypedComSample.deps.json |
依存関係の解決情報 |
VbaTypedComSample.runtimeconfig.json |
.NET ランタイム起動情報 |
ここで大事なのは、VBA が型を知るために必要なのは TLB で、COM の起動入口として必要なのは comhost だという点です。
.dll 単体を渡して終わり、とはいかないあたりが、COM の世界の素直でないところです。
3. 最初に決めること - 32bit / 64bit を揃える
ここを外すと、かなりの確率で ActiveX コンポーネントはオブジェクトを作成できません。 方面へ転がります。
Office / VBA と COM サーバーの bitness は揃えてください。
| 利用側 | .NET 側の目安 | TLB 生成 | 登録コマンド |
|---|---|---|---|
| 64bit Office | x64 / win-x64 |
dscom |
C:\Windows\System32\regsvr32.exe |
| 32bit Office(64bit Windows 上) | x86 / win-x86 |
dscom32.exe |
C:\Windows\SysWOW64\regsvr32.exe |
.NET 5+ 以降の COM host では、AnyCPU のままにすると *.comhost.dll が 64bit 側に寄りやすく、32bit Office と噛み合わないことがあります。なので、Office に合わせて x86 / x64 を明示したほうが安全です。
この記事のコードは 64bit Office 向けを例にします。32bit Office なら、後で出てくる x64 を x86、win-x64 を win-x86 に読み替えてください。
4. .NET 8 側を作る
ここでは、VBA から Add、Divide、Hello を呼べる最小サンプルにします。
4.1 .csproj
<Project Sdk="Microsoft.NET.Sdk">
<PropertyGroup>
<TargetFramework>net8.0-windows</TargetFramework>
<Nullable>enable</Nullable>
<ImplicitUsings>enable</ImplicitUsings>
<EnableComHosting>true</EnableComHosting>
<PlatformTarget>x64</PlatformTarget>
<NETCoreSdkRuntimeIdentifier>win-x64</NETCoreSdkRuntimeIdentifier>
</PropertyGroup>
</Project>
ポイントは EnableComHosting です。これを付けると、ビルド時に VbaTypedComSample.comhost.dll が生成されます。
4.2 アセンブリ全体はデフォルトで COM 非公開にしておく
COM に見せる型だけ ComVisible(true) にしたいので、アセンブリ全体は false にしておくのが楽です。
using System.Runtime.InteropServices;
[assembly: ComVisible(false)]
4.3 公開するインターフェイスとクラスを書く
using System.Runtime.InteropServices;
namespace VbaTypedComSample;
[ComVisible(true)]
[Guid("2A1BBEDE-DE6E-4C34-AD60-2E9E0E33E999")]
[InterfaceType(ComInterfaceType.InterfaceIsDual)]
public interface ICalculator
{
[DispId(1)]
int Add(int x, int y);
[DispId(2)]
double Divide(double x, double y);
[DispId(3)]
string Hello(string name);
}
[ComVisible(true)]
[Guid("FAD1C752-0BB6-4DDD-889F-FE446350847A")]
[ClassInterface(ClassInterfaceType.None)]
[ComDefaultInterface(typeof(ICalculator))]
public class Calculator : ICalculator
{
public Calculator()
{
}
public int Add(int x, int y) => checked(x + y);
public double Divide(double x, double y)
{
if (y == 0)
{
throw new ArgumentOutOfRangeException(nameof(y), "0 では割れません。");
}
return x / y;
}
public string Hello(string name)
{
if (string.IsNullOrWhiteSpace(name))
{
return "Hello";
}
return $"Hello, {name}";
}
}
このコードで押さえておきたいのは、以下の点です。
Guidは インターフェイスと クラスに別々に振るClassInterfaceType.Noneにして、自動生成クラスインターフェイスに依存しない- VBA で扱いやすいように
InterfaceIsDualにする DispIdを振っておくと、公開後にメソッド順をいじったときの事故を減らしやすい- COM から
Newされるので、public な引数なしコンストラクターを用意する
5. ビルドする
Release ビルドします。
dotnet build -c Release
ビルド後、出力フォルダには少なくとも次のようなファイルが並びます。
bin/
Release/
net8.0-windows/
VbaTypedComSample.dll
VbaTypedComSample.comhost.dll
VbaTypedComSample.deps.json
VbaTypedComSample.runtimeconfig.json
配布や登録で使うのはこのフォルダです。あとで配置場所を変えるなら、登録もやり直しになります。
6. dscom で TLB を生成する
6.1 dscom とは何か
dscom は、.NET アセンブリから COM のタイプライブラリ(TLB)を生成・登録するためのオープンソースのコマンドラインツールです。dSPACE 社が公開しており、ライセンスは Apache-2.0 です。
なぜ必要かというと、.NET 5 以降では tlbexp.exe と RegAsm.exe が廃止されたからです。.NET Framework の時代はこの 2 つで TLB 生成とアセンブリ登録ができましたが、.NET 5+ にはその後継が標準で入っていません。dscom は、その穴を埋めるために作られたツールです。
主なサブコマンドはこれだけ覚えておけば足ります。
| サブコマンド | 役割 |
|---|---|
tlbexport |
アセンブリから TLB を書き出す |
tlbregister |
TLB をシステムへ登録する |
tlbunregister |
TLB の登録を解除する |
tlbdump |
TLB の中身を出力して確認する |
tlbembed |
TLB をファイルへ埋め込む |
tlbdump は、生成した TLB に意図した型が入っているかを、VBA を開く前に確認するのに便利です。
6.2 64bit の場合
64bit の TLB を作るだけなら、dotnet tool で入ります。
dotnet tool install --global dscom
次に、ビルドしたアセンブリから TLB を生成します。
dscom tlbexport .\bin\Release\net8.0-windows\VbaTypedComSample.dll --out .\bin\Release\net8.0-windows\VbaTypedComSample.tlb
6.3 32bit Office 向けの場合 - dscom32.exe をどこから入手するか
ここが 32bit Office 対応で一番詰まるところです。
dotnet tool install で入る dscom は、AnyCPU または 64bit のアセンブリしか扱えず、生成できるのは 64bit の TLB だけです。 32bit の TLB を作るには、別の実行ファイルである dscom32.exe が必要で、これは NuGet ではなく GitHub のリリースページからダウンロードします。
- 入手先: https://github.com/dspace-group/dscom/releases
dscom.exe… AnyCPU または 64bit アセンブリから 64bit TLB を作るdscom32.exe… AnyCPU または 32bit アセンブリから 32bit TLB を作る
ダウンロードした dscom32.exe は、この記事の例ではプロジェクト直下の tools フォルダーへ置いています。置き場所は自由ですが、ビルド出力と一緒に配布しないようにしてください。開発時のツールであって、実行時には不要です。
もう 1 つ、見落としやすい前提があります。dscom32.exe を動かすには、x86 版の .NET ランタイムが入っている必要があります。 dscom が hostfxr.dll を読み込む都合によるもので、x64 版しか入っていない環境では動きません。dotnet --info の出力にある一覧で、x86 のランタイムがあるか確認してください。
.\tools\dscom32.exe tlbexport .\bin\Release\net8.0-windows\VbaTypedComSample.dll --out .\bin\Release\net8.0-windows\VbaTypedComSample.tlb
なお、dscom 側のドキュメントでも、AnyCPU のままにすると *.comhost.dll が 64bit として生成されるため、32bit で使うならアセンブリ自体を 32bit でコンパイルすることが推奨されています。3 章の話と同じ結論です。
ビルドのたびに手で叩くのが面倒なら、dSPACE.Runtime.InteropServices.BuildTasks パッケージを入れると、コンパイル時に TLB を自動生成できます。
7. COM host と TLB を登録する
ここは 管理者権限のコマンドプロンプト / PowerShellで実行してください。
7.1 64bit Office / 64bit COM の場合
$out = Resolve-Path .\bin\Release\net8.0-windows
C:\Windows\System32\regsvr32.exe "$out\VbaTypedComSample.comhost.dll"
dscom tlbregister "$out\VbaTypedComSample.tlb"
7.2 32bit Office(64bit Windows 上)の場合
$out = Resolve-Path .\bin\Release\net8.0-windows
C:\Windows\SysWOW64\regsvr32.exe "$out\VbaTypedComSample.comhost.dll"
.\tools\dscom32.exe tlbregister "$out\VbaTypedComSample.tlb"
ここでやっていることは 2 つです。
regsvr32で*.comhost.dllを COM サーバーとして登録するtlbregisterで*.tlbをタイプライブラリとして登録する
8. VBA で参照設定して、型付きで使う
- Excel または Access を開く
Alt+F11で VBA エディタ(VBE)を開く。リボンから開くなら開発タブ >Visual Basicです。開発タブが出ていない場合は、ファイル>オプション>リボンのユーザー設定で開発にチェックを入れます- VBE のメニューで
ツール>参照設定 参照可能なライブラリ ファイルの一覧はアルファベット順に並びます。登録が成功していれば、その中にライブラリ名(既定ではアセンブリ名と同じVbaTypedComSample)が出るので、左のチェックボックスを入れてOK- 一覧に見えなければ
参照...ボタンからVbaTypedComSample.tlbを直接選ぶ
一覧に出てこない場合、原因はたいてい 3 章の bitness 不一致か、7 章の tlbregister が通っていないかのどちらかです。32bit Office からは 64bit で登録した TLB は見えません。
参照設定が入ったかどうかは、表示 > オブジェクト ブラウザー(F2)を開き、左上のライブラリ選択で VbaTypedComSample を選べるかで確認できます。ここで ICalculator と Calculator、そして Add / Divide / Hello が見えていれば、TLB は正しく作れています。
Option Explicit
Public Sub UseCalculator()
Dim calc As VbaTypedComSample.ICalculator
Set calc = New VbaTypedComSample.Calculator
Debug.Print calc.Add(10, 20)
Debug.Print calc.Divide(10, 4)
Debug.Print calc.Hello("VBA")
End Sub
このプロシージャにカーソルを置いて F5 で実行し、Ctrl + G でイミディエイト ウィンドウを開くと、4 章の実装どおりに 3 行が出ます。
30
2.5
Hello, VBA
ここが期待どおりなら、参照設定・COM 登録・ランタイム起動・引数と戻り値のマーシャリングまで全部通っています。逆に、ここで値が合わないなら .NET 側の実装を、そもそも実行できないなら 3 章と 7 章を疑ってください。
これで、VBA 側にはこんな恩恵があります。
- IntelliSense が効く
- メソッド名の typo が実行前に見つけやすい
- Object Browser で公開 API を確認できる
Objectベタ書きより読みやすい
8.1 例外は VBA 側では COM エラーになる
たとえば Divide(10, 0) のように .NET 側で例外が投げられると、VBA 側では COM エラーとして見えます。
Option Explicit
Public Sub UseCalculatorWithErrorHandling()
On Error GoTo EH
Dim calc As VbaTypedComSample.ICalculator
Set calc = New VbaTypedComSample.Calculator
Debug.Print calc.Divide(10, 0)
Exit Sub
EH:
Debug.Print Err.Number
Debug.Print Hex$(Err.Number)
Debug.Print Err.Description
End Sub
ここで出る値の読み方を押さえておくと、切り分けが速くなります。
| 項目 | 何が入るか |
|---|---|
Err.Number |
.NET の例外に対応する HRESULT が、符号付き Long として入ります。10 進のままでは読みにくいので Hex$(Err.Number) で 16 進に直します |
Err.Description |
COM の IErrorInfo 経由で、.NET の例外メッセージがそのまま入ります。上のコードなら 0 では割れません。 を含む文字列です |
HRESULT の値は例外の型ごとに決まっています。ArgumentOutOfRangeException に対応するのは COR_E_ARGUMENTOUTOFRANGE、値は 0x80131502 です。つまり Hex$(Err.Number) が 80131502 になっていれば、想定どおり .NET 側の ArgumentOutOfRangeException が届いていることになります。
主なものを並べると、こうです。
| .NET の例外 | HRESULT 定数 | 値 |
|---|---|---|
ArgumentException |
COR_E_ARGUMENT |
0x80070057 |
ArgumentOutOfRangeException |
COR_E_ARGUMENTOUTOFRANGE |
0x80131502 |
InvalidOperationException |
COR_E_INVALIDOPERATION |
0x80131509 |
NotSupportedException |
COR_E_NOTSUPPORTED |
0x80131515 |
| 上記以外の一般的な例外 | COR_E_EXCEPTION |
0x80131500 |
VBA 側で例外の種類ごとに処理を分けたいなら、この HRESULT で分岐することになります。ただし、HRESULT で分岐する設計は .NET 側の例外型の変更に弱いので、業務的な失敗は例外ではなく戻り値やエラーコードで返すほうが、境界としては安定します。
9. 配布するときの考え方
配布時に大事なのは、DLL 単体を配るのではなく、出力一式を置くことです。
VbaTypedComSample.dll
VbaTypedComSample.comhost.dll
VbaTypedComSample.deps.json
VbaTypedComSample.runtimeconfig.json
VbaTypedComSample.tlb
(必要なら依存 DLL 一式)
さらに、クライアント PC には 対応する .NET 8 ランタイムが必要です。COM host は self-contained 配布ではなく、基本的に framework-dependent な運用になります。
入れるものは具体的にはこうです。
- 配布ページは .NET 8 のダウンロードです
- 必要なのは SDK ではなく ランタイムです。この記事のサンプルは画面を持たないクラスライブラリなので、
.NET Runtimeで足ります。WPF や Windows フォームの型を使う場合は.NET Desktop Runtimeが必要です - bitness は Office に合わせます。 64bit Office なら x64、32bit Office なら x86 のランタイムです。3 章で
x64/x86を明示したのと同じ理由で、ここも合っていないと起動しません - 導入済みかどうかは、クライアント PC で
dotnet --list-runtimesを実行してMicrosoft.NETCore.App 8.xの行があるか見ると分かります
配布資料には、この「必要なランタイムの種類・バージョン・bitness」を必ず書いておいてください。導入手順に書き忘れると、現地で ActiveX コンポーネントはオブジェクトを作成できません。 を見て bitness を疑い、時間を溶かします。
10. はまりどころ
10.1 AnyCPU のまま放置しない
VBA / Office の bitness と COM host の bitness がズレると、かなり気持ち悪い失敗のしかたをします。
- 64bit Office なら
x64/win-x64 - 32bit Office なら
x86/win-x86
10.2 ClassInterfaceType.AutoDual を使わない
一見ラクですが、公開後にメンバー順や構成を触ると壊しやすいです。
VBA から型付きで安定して使いたいなら、明示インターフェイスを定義し、クラスは ClassInterfaceType.Noneにしておくのが定石です。
10.3 GUID を軽率に再生成しない
COM では GUID が契約そのものです。IID や CLSID を公開後に軽率に入れ替えると、既存の VBA 参照や登録が壊れます。
10.4 公開済みインターフェイスを壊さない
COM は「後から 1 個メソッド足しただけ」でも平和に済まないことがあります。
ICalculatorは残す- 変更が大きいなら
ICalculator2を新設する - クラスは両方実装してもよい
10.5 型は地味に寄せる
VBA に見せる境界では、あまり格好をつけないほうが安全です。
相性が良いのは、まずはこのへんです。
intdoubleboolstringDateTimedecimalenum
10.6 Office を開いたまま更新しない
Excel や Access が DLL を掴んだままになり、ビルドや再登録で面倒が起きることがあります。
- Office を閉じる
- 必要なら登録解除する
- ビルドし直す
- もう一度登録する
登録解除は、登録したときと逆の順序で、登録に使ったのと同じ bitness のコマンドで行います。管理者権限が必要なのも登録時と同じです。
# 64bit Office / 64bit COM の場合
$out = Resolve-Path .\bin\Release\net8.0-windows
dscom tlbunregister "$out\VbaTypedComSample.tlb"
C:\Windows\System32\regsvr32.exe /u "$out\VbaTypedComSample.comhost.dll"
# 32bit Office(64bit Windows 上)の場合
$out = Resolve-Path .\bin\Release\net8.0-windows
.\tools\dscom32.exe tlbunregister "$out\VbaTypedComSample.tlb"
C:\Windows\SysWOW64\regsvr32.exe /u "$out\VbaTypedComSample.comhost.dll"
regsvr32 の /u が登録解除のオプションです。登録時と違う regsvr32 を使うと解除できません(64bit で登録したものを SysWOW64 の regsvr32 では外せません)。フォルダーごと移動・削除する前に解除しておかないと、レジストリに存在しないパスの登録が残ります。
11. まとめ
.NET 8 の DLL を型付きで VBA から使うという話は、COM 公開 + dscom で TLB 生成に絞ってしまえば、それほど怖い手順ではありません。.NET 8 側は EnableComHosting=true にして明示インターフェイス(クラスは ClassInterfaceType.None、VBA 向けは InterfaceIsDual)を用意し、dscom tlbexport で TLB を作り、regsvr32 で *.comhost.dll を、dscom tlbregister で *.tlb を登録する。あとは VBA で参照設定を入れて早期バインディングするだけです。
迷ったときは、COM host と TLB を分けて考えるのがコツです。
- 起動入口は
*.comhost.dll - 型情報は
*.tlb - 実装本体は
*.dll
12. 参考資料
- この記事のサンプルコード一式(COM 公開ライブラリ、スクリプト、VBA、テスト) - komurasoft-blog-samples (GitHub)
- Expose .NET components to COM - Microsoft Learn
- COM 相互運用のために .NET 型を修飾する - Microsoft Learn
- ComInterfaceType 列挙型 - Microsoft Learn
- ClassInterfaceType 列挙型 - Microsoft Learn
- COM 呼び出し可能ラッパー - Microsoft Learn
- DispIdAttribute クラス - Microsoft Learn
- dscom - NuGet Gallery
- dspace-group/dscom - GitHub(dscom 本体。サブコマンド一覧と 32bit 対応の説明)
- dscom のリリースページ(
dscom32.exeの入手先) - HRESULT と例外を対応付ける方法 - Microsoft Learn
- How to use the Regsvr32 tool and troubleshoot Regsvr32 error messages - Microsoft Support
- .NET 8 downloads
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Windowsアプリ開発
VBA、COM、Office、.NET 8、型ライブラリ生成まで含めた接続面の設計は Windows アプリ開発と強く結び付くので、Windowsアプリ開発 と相性がよいテーマです。
技術相談・設計レビュー
既存 VBA 資産を .NET 8 とつなぐ境界設計、bitness、登録、TLB 生成、配布方式まで含めて整理したい場合は、技術相談・設計レビューとして進めやすいです。
よくある質問
この記事のテーマについて、相談時によくある質問をまとめています。
- .NET 8のDLLをVBAから型付き(早期バインディング)で使うには何が必要ですか?
- .NET 8のクラスライブラリをEnableComHosting=trueでビルドして*.comhost.dllを生成し、dscom tlbexportで*.tlbを作ります。次にregsvr32で*.comhost.dllを、dscom tlbregisterで*.tlbを登録し、VBAの参照設定でそのTLBを追加すれば、Dim x As ライブラリ名.IYourInterfaceの形で型付きに使えます。役割分担としては、COMの起動入口が*.comhost.dll、VBAが見る型情報が*.tlb、実装本体が*.dllです。
- 「ActiveX コンポーネントはオブジェクトを作成できません」と出る原因は何ですか?
- 典型的な原因はOffice/VBAとCOMサーバーのbitness不一致です。64bit Officeならx64/win-x64でビルドしてSystem32のregsvr32で登録し、32bit Office(64bit Windows上)ならx86/win-x86でビルドしてSysWOW64のregsvr32で登録、TLB生成もdscom32.exeを使います。.NET 5+のCOM hostではAnyCPUのままにすると*.comhost.dllが64bit側に寄りやすく、32bit Officeと噛み合わないことがあるため、Officeに合わせてx86/x64を明示するのが安全です。
- ClassInterfaceType.AutoDualを使ってはいけないのですか?
- 一見ラクですが、公開後にメンバー順や構成を触ると壊しやすいため避けるべきです。VBAから型付きで安定して使いたいなら、明示的なインターフェイスを定義してクラスはClassInterfaceType.Noneにし、VBAから使うインターフェイスはInterfaceIsDualにするのが定石です。DispIdを振っておくとメソッド順変更時の事故を減らせます。またCOMではGUIDが契約そのものなので、IIDやCLSIDを公開後に軽率に再生成すると既存のVBA参照や登録が壊れます。
- 配布するときはDLL単体を渡せばよいですか?
- DLL単体では動きません。実装本体の*.dll、*.comhost.dll、*.deps.json、*.runtimeconfig.json、*.tlb、必要なら依存DLL一式をまとめて配置します。さらにクライアントPCには対応する.NET 8ランタイムが必要で、COM hostはself-contained配布ではなく基本的にframework-dependentな運用になります。配置場所をあとで変えるなら登録もやり直しになる点にも注意が必要です。